匂う本、薫る本、あつめました。
ジャスミンの薫りの立ちのぼる季節が終われば、雨の日が増え、ジメジメと湿気を増していくのが、この日本のお約束。
そう、梅雨の到来です。
洗濯物の時間に気を使い、ほぼ毎日使うであろう傘を干したりと、なにかと気分も鬱々してしまいがちですが、好むと好まざるとに関わらず、薫りに敏感になれるのがこの季節。「街や、身の回りに溢れる色んな匂い、その匂いの元には様々なドラマが隠れているのかも。」なんて考えるのはけっこう楽しいものです。
そこで今回は、「匂い」や「香り」が印象深い作品をあつめてみました。
記憶を呼び覚ます
香りに刺激されて記憶を鮮明に思い出すことってあります。草いきれやグラウンドの土の匂い、雨の公園の香りや、おいしい食べ物の香りが「あのとき、あの頃」を運んでくる......。読書しながら鼻をヒクつかせるのも、この時期ならではの趣向です。匂いにつられて思い出す、記憶の奥に追いやってしまった大事な「なにか」は「幸せ」なのかもしれません。
ー なんだったかしら? このにおいをわたしは知っている。ー
甘く、なつかしいかおり......。
いつか、どこかで、わたしはこのにおいを......。『時をかける少女』(本文より)
紅茶に浸した小さなマドレーヌが、忘れ去られた遠い記憶を呼び覚ます。呼び覚ますどころか、そこから始まるめくるめく回想譚は、全14巻にも及びます。深い思索と感覚的表現のみごとさで20世紀最高の文学と謳われてきた本作は、昨年秋に、光文社と岩波書店から新訳の刊行が始まったばかり。長く続くともいわれる今年の梅雨、記憶の旅に出るのに「のんびりと読むのによいかも」な作品です。
岩波文庫版はこちら。
此処ではない何処かの香り
旅を誘うように、その土地それぞれの香りを教えてくれるような作品があります。
映画化されたジョアン・ハリスの「ショコラ」のように、甘く、人をとろかせる香りもあれば、海の香りや、その地に吹く風の独特な香りもあります。本を読み終えるのが名残惜しく、もっとその世界に浸っていたいと思うのなら、いっそのこと、そのお気に入りの本を携えて旅に出るのもいいかもしれません。
耳を澄ますと風の切れ目に微かな三線の音と、ゆったりとした舞を舞わせる唄が聞こえて来た。
小気味好い太鼓のリズムと、軽やかに空を舞う笛の音、
賑やかな祭の宴が催されているようだ。
砂浜へと洩れてくる森の香りは豊かな実りの匂いだった。『風車祭』(本文より)
全ての匂いが判る男
どんな匂いも嗅ぎ分けられる......。『パフューム』というタイトルで映画化されたジュースキントの『香水 ある人殺しの物語』を読んだとき、ドアノブのにおい、石のにおい、花の香り、動物のにおい、果ては目立たない人のにおいに至るまで、ありとあらゆるにおいを嗅ぎ分ける主人公グルヌイユのように、本当に嗅ぎ分けられる人がいたら、「その人はこの主人公のような恐ろしい人かも知れない」と、なんとなく思っていました。しかしながら、世の中には色んな人がいるものです。実際に、どんな匂いでも嗅ぎ分けられる男が存在するんです。そして、至極真っ当で恐ろしくはない人が......。
「これは、汗まみれのマンゴーの匂いだ」『匂いの帝王』(帯より)
「ニオイバンマツリの花が薫りだしたら、梅雨が来る!」なんて思っていたら、今年は例年よりも一週間ほど早く梅雨入りしてしまいました。「匂い」や「香り」についての描写が素晴らしい本をざっくりとご紹介しましたが、「食の匂い」や「女の香り」など、ここで紹介しきれないほど、沢山の素敵なテーマがあります。嗅覚を刺激するこんな時期、サワサワと降り続ける雨の音を聞きながら、とっておきの本と香りを再発見する読書の旅を愉しむのも、素敵です。
(編集部 奥村知花)











