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匂う本、薫る本、あつめました。

niou1992 pickup.bmpジャスミンの薫りの立ちのぼる季節が終われば、雨の日が増え、ジメジメと湿気を増していくのが、この日本のお約束。
そう、梅雨の到来です。

洗濯物の時間に気を使い、ほぼ毎日使うであろう傘を干したりと、なにかと気分も鬱々してしまいがちですが、好むと好まざるとに関わらず、薫りに敏感になれるのがこの季節。「街や、身の回りに溢れる色んな匂い、その匂いの元には様々なドラマが隠れているのかも。」なんて考えるのはけっこう楽しいものです。

そこで今回は、「匂い」や「香り」が印象深い作品をあつめてみました。


記憶を呼び覚ます

香りに刺激されて記憶を鮮明に思い出すことってあります。草いきれやグラウンドの土の匂い、雨の公園の香りや、おいしい食べ物の香りが「あのとき、あの頃」を運んでくる......。読書しながら鼻をヒクつかせるのも、この時期ならではの趣向です。匂いにつられて思い出す、記憶の奥に追いやってしまった大事な「なにか」は「幸せ」なのかもしれません。

ー なんだったかしら? このにおいをわたしは知っている。ー 


甘く、なつかしいかおり......。
いつか、どこかで、わたしはこのにおいを......。

『時をかける少女』(本文より)


失われた時を求めて

失われた時を求めて

マルセル・プル−スト、高遠弘美 / 光文社
2010/09出版
ISBN : 4334752128
¥1,000 (税込)

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[第1巻]
紅茶に浸した小さなマドレーヌが、忘れ去られた遠い記憶を呼び覚ます。呼び覚ますどころか、そこから始まるめくるめく回想譚は、全14巻にも及びます。深い思索と感覚的表現のみごとさで20世紀最高の文学と謳われてきた本作は、昨年秋に、光文社と岩波書店から新訳の刊行が始まったばかり。長く続くともいわれる今年の梅雨、記憶の旅に出るのに「のんびりと読むのによいかも」な作品です。

岩波文庫版はこちら


時をかける少女

時をかける少女

筒井康隆 / 角川書店
2006/05出版
ISBN : 4041305217
¥460 (税込)

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80年代に原田知世主演で映画化された本作は、その後、幾度も映画化され、今なお世代を超えたクリエーターたちにインスピレーションを与え続けています。児童向けに書かれた作品ですが、大人でも切ない気持ちにさせる一篇です。ラベンダーの香りが引き起こす記憶を巡る奇妙な事件が、瑞々しいタッチで描かれている本作は、青春時代の第一歩の香りを思い出すお手伝いをしてくれそうです。


此処ではない何処かの香り

旅を誘うように、その土地それぞれの香りを教えてくれるような作品があります。
映画化されたジョアン・ハリスの「ショコラ」のように、甘く、人をとろかせる香りもあれば、海の香りや、その地に吹く風の独特な香りもあります。本を読み終えるのが名残惜しく、もっとその世界に浸っていたいと思うのなら、いっそのこと、そのお気に入りの本を携えて旅に出るのもいいかもしれません。

耳を澄ますと風の切れ目に微かな三線の音と、

ゆったりとした舞を舞わせる唄が聞こえて来た。
小気味好い太鼓のリズムと、軽やかに空を舞う笛の音、
賑やかな祭の宴が催されているようだ。
砂浜へと洩れてくる森の香りは豊かな実りの匂いだった。

『風車祭』(本文より)

風車祭(カジマヤ−)

風車祭(カジマヤ−)

池上永一 / 文藝春秋
2001/08出版
ISBN : 9784167615024
¥1,180 (税込)

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石垣島生まれの作家、池上永一が綴る沖縄ファンタジー。少年とマブイ(魂)となってしまった少女と六本足の妖怪豚を中心に、人と土着の神さまとマブイと妖怪が織りなす、やや劇画タッチのこの物語は、風が運ぶ島の香りを届けてくれるはず。98年度の直木賞候補作品。(余談ですが、この紹介文の執筆者が、この文庫で読んだのをきっかけに、保存用の単行本、漫画、すべて揃えて集めてしまったという作品です。)

風車祭

風車祭

栗原まもる、池上永一 / 講談社
2006/08出版
ISBN : 4063406067
¥410 (税込)

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ちなみにこれが漫画版。漫画化された池上永一作品はほぼ全て、この栗原まもるが手がけています。全5巻の超大作。きわめて原作に忠実に描かれた本作は、長寿に異様な執念を燃やすフジオバアや、六本足の妖怪豚などのサブキャラたちも活き活きと精彩を放って作品に彩りを添えています。読み終えたら、無性に石垣島へ訪れたくなる本作ですが、読んでるだけで「行った気分になる」のにも、おあつらえ向きの物語です。


柘榴のス−プ

柘榴のス−プ

マ−シャ・メヘラ−ン、渡辺佐智江 / 白水社
2006/07出版
ISBN : 4560027463
¥2,100 (税込)

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流血のテヘランから逃れて、アイルランドの田舎町でペルシア料理店を開いた、美しい三姉妹の物語。姉妹の幸せと、郷土料理の官能と癒しのスパイスがページをめくる楽しみを倍増させます。各章の扉にペルシア料理のレシピもついています。物語の中でもてなされる料理の一品一品のスパイスの香りが、想像力を刺激し、ペルシアまでは行けなくとも、どこかのペルシア料理店へと、ふらりと足を向けたくなる一冊です。


全ての匂いが判る男

どんな匂いも嗅ぎ分けられる......。『パフューム』というタイトルで映画化されたジュースキントの『香水 ある人殺しの物語』を読んだとき、ドアノブのにおい、石のにおい、花の香り、動物のにおい、果ては目立たない人のにおいに至るまで、ありとあらゆるにおいを嗅ぎ分ける主人公グルヌイユのように、本当に嗅ぎ分けられる人がいたら、「その人はこの主人公のような恐ろしい人かも知れない」と、なんとなく思っていました。しかしながら、世の中には色んな人がいるものです。実際に、どんな匂いでも嗅ぎ分けられる男が存在するんです。そして、至極真っ当で恐ろしくはない人が......。

「これは、汗まみれのマンゴーの匂いだ」
『匂いの帝王』(帯より)


香水 ある人殺しの物語

香水 ある人殺しの物語

パトリック・ジュ−スキント、池内紀 / 文藝春秋
2003/06出版
ISBN : 9784167661380
¥770 (税込)

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凄惨でグロテスクな悪臭が立ちこめる18世紀のフランスを舞台に、まったく体臭のない主人公グルヌイユが生まれ落ちた。彼には恐ろしく鋭い嗅覚と、匂いへの異様なまでの執着以外に、何もない......。次々と起こる美少女の殺人事件の結末はいかに? 匂いの、あまりに細やかな描写に、18世紀に迷い込んだような感覚に襲われる一冊。


匂いの帝王 天才科学者ルカ・トゥリンが挑む嗅覚の謎

匂いの帝王 天才科学者ルカ・トゥリンが挑む嗅覚の謎

チャンドラ−・バ−ル、金子浩 / 早川書房
2003/12出版
ISBN : 4152085363
¥2,415 (税込)

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どんな香りの成分もかぎ分けることができる実在の人物、ルカ・トゥリン。突出した科学者でもある彼は、同時に香水マニアでもあった。世界の香水ガイドを出版したことをきっかけに、クリスチャン・ディオールやジバンシィなど、狭く閉鎖的な香水製造業界に途方もない打撃を与えた人物である。五感の中でももっとも解明の遅れた嗅覚を、科学的に解き明かすための奮闘を綴る衝撃のノン・フィクション。


「ニオイバンマツリの花が薫りだしたら、梅雨が来る!」なんて思っていたら、今年は例年よりも一週間ほど早く梅雨入りしてしまいました。「匂い」や「香り」についての描写が素晴らしい本をざっくりとご紹介しましたが、「食の匂い」や「女の香り」など、ここで紹介しきれないほど、沢山の素敵なテーマがあります。嗅覚を刺激するこんな時期、サワサワと降り続ける雨の音を聞きながら、とっておきの本と香りを再発見する読書の旅を愉しむのも、素敵です。

(編集部 奥村知花)

2011.06.10 特集[TOP]  くらし アート エンタメ サイエンス 文学 Fun! おしゃれ なごむ ロングセラー 感動の一冊

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