サッカー日本代表・長谷部誠選手の『心を整える。』が刊行から一週間で10万冊を超えて、爆発的に売れています。
情報が溢れて心を乱されがちな昨今、まずは心を落ちつかせ、ゆっくり力をためて、気持ちのバランスをとることを必要とされる時代に私たちは、いるのかもしれません。
日々くりかえされる練習や食事、睡眠のリズムが「少しでも乱れたら自分で整える」というサッカー日本代表のキャプテン、長谷部誠が実践する56の習慣を紹介する一冊。ちなみに「誰もが実践できるメンタル術!」と帯に書かれていますが、全ページ、濃いブルーで印刷された本書は、実践までしなくとも読み終えるだけで心を整える準備ができそうです。
『心を整える。』はその名の通り、長谷部選手が実践するメンタルトレーニング術を紹介する本ですが、そもそも「読書」するというきわめて能動的な行為もまた、心を整えるのに、大きな一役をかっているのではないでしょうか?
逆境に立ち向かうファンタジーの主人公や、世界の裏側にいるかと思えるような作家の回想録など、読み進めるにあたり、読者も登場人物たちと一緒になって視点を変え、空想世界を自由に飛び回ることが出来る。
これは、「読書」の大きな醍醐味の一つであると言えましょう。そこで、「ゆっくり息を吸ってはいて...、」と、私たちに上手に呼吸をすることを促してくれるような、心に効く作品を3つの視点からご紹介したいと思います。
時代に流されない。
いつの世だって、人は移ろいやすく時代に翻弄されがちです。
しかし、私たちは本当に時代にただただ流されるだけの存在なのでしょうか?
そんな問いに、先人たちが残したエッセイや文学は、きっと答えてくれるはずです。
みのたけの春
志水辰夫 / 集英社
2008/11出版
ISBN : 9784087712643
¥1,890 (税込)
人々が「新しい国」という夢に浮かされた幕末時代、北但馬の農村で、変わりばえしない日々のなかに、自分の生きる道を見出そうとした主人公の姿を描く物語。大きな時代の変動の中で、大人や友人たちが次々と出奔する状況に流されることなく、ただ静かに見つめる主人公清吉の透明感のある姿は、「大事なことは何なのか?」を私たちにそっと語りかけます。
戦中派不戦日記
山田風太郎 / 講談社
2002/12出版
ISBN : 4062736322
¥1,000 (税込)
戦後になって書かれた文献は数多くあれど、本書は東京の一医学生であった著者の山田風太郎が、戦時中に自らの体験と心情を綴った日記をそのまま一冊にまとめ、本にしたものです。この日記が書かれた昭和20年から70年近く経った今、読み返してみると、情報統制下の日本において、当時の庶民感情の流れがよりリアルに感じられるのではないでしょうか。自分と向き合うことの大切さを教えてくれる一冊です。
テヘランでロリ−タを読む
ア−ザル・ナフィ−シ−、市川恵里 / 白水社
2006/09出版
ISBN : 4560027544
¥2,310 (税込)
イスラム革命後のイランで、「女性の知識人」というレッテルによって大学を追われた著者が、女性のために開いた読書会は、『ロリータ』や『華麗なるギャツビー』などの禁じられた小説を読むものだった。監視社会の恐怖の中で精神の自由を求めた著者アーザル・ナフィーシーの、この回想録は「勇気とは何か」を考えるきっかけをくれるはずです。
ものごとをポジティブにとらえてみる。
『風と光と二十の私と』の中で「変に白々しい気持ちも開き直って生きることで、未来が開ける」と説いた坂口安吾の言葉にあるように、視点を変えることによって、ものごとがポジティブになることって、あります。
ものごとを必要以上に楽観視するのは「いかがなものか」とも思いますが、哀しいことや辛いことばかりを見つめ続けて生きていけるほど、人は強くはないはずです。だから、視点を変えてみることが、とっても大事なのではないでしょうか。
「前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。
恐れない者の前に道は開ける。行け。勇んで。小さき者よ。」
『小さき者へ』(本文より)
「ありがちな事柄の中からも人生の淋しさに深くぶつかってみることが出来る。......(中略)それは心一つだ。」と、母をなくした幼い子供たちに向けられたこの一篇は、同時に、妻をなくした自分に向けても綴られたエールである。「大きな悲しみや不安はあるけども、それらを乗り越えて進むことによって未来は開けるのだ。」と、励まされます。
停電の夜に
ジュンパ・ラヒリ、小川高義 / 新潮社
2003/03出版
ISBN : 9784102142110
¥620 (税込)
繊細な筆致で人間模様を書いた美しい短篇集。表題作『停電の夜に』は、ボタンの掛け違ってしまった夫婦が、"工事のため五日間だけ夜の八時から九時まで停電になる"という通知を受けたところから始まる物語です。毎晩続く停電の中で、夫婦がはじめた、ちょっとした趣向が思わぬ展開をみせる一篇。
日本に生まれてよかった!
永六輔、ケン・ジョ−ゼフ / 徳間書店
2011/02出版
ISBN : 4198631255
¥1,260 (税込)
3月22日の朝日新聞「天声人語」で取りあげられていた本書は、キリスト教宣教師の息子として、日本で生まれ育ったケン・ジョセフと、お寺の息子として生まれた永六輔の対談本。一見、真逆のように思える二人の、日本に注がれる眼差しは共通している。今の日本の若者に向けられた内容は、私たちの生まれたこの「日本」を俯瞰することによって、タイトル通り「日本に生まれてよかった!」と思わせる一冊です。
とにかく食べる。生きる原点にかえってみる。
生きていく上で、食べることはとても大事な行為です。
仕事に追われていたり、心が疲れてしまったり、打ちのめされたりしてしまうと、つい食事することをおろそかにしてしまいがちですが、この「咀嚼して飲み下す」という行為こそ、生きることの最初の一歩を踏み出すことではないでしょうか?
焼きたてのパンや、ジブリ作品に出てくるようなチーズ、『ぐりとぐら』に出てくるカステラ......。どれも、ちょっとした幸せや生きる活力を分けてくれます。そこで、この特集の最後のテーマは「食べる」。読み終えたときに「ぐう」とおなかがなってくるような作品をご紹介します。
よかったら、あたしが焼いた温かいロールパンを食べてください。
ちゃんと食べて、頑張って生きていかなきゃならんのだから。
こんなときには、ものを食べることです。
それはささやかなことですが、助けになります」
(「ささやかだけれど、役にたつこと」『大聖堂』より)
最後の晩餐
開高健 / 光文社
2006/03出版
ISBN : 9784334740412
¥660 (税込)
開高健は引き出しが多くて深い男性だ。魯迅から始まり、そのまま一気に世界中を駆け巡り、文化や歴史を紹介しつつ「食」にまつわるエッセイを書く。「食べる」ことをとおして、人間の本質を教えてくれる本書は、まるで『ドラえもん』の「どこでもドア」のように、読者の意識を遠くの世界へと連れて行ってくれる珠玉の一冊です。
大聖堂
レイモンド・カ−ヴァ−、村上春樹 / 中央公論新社
2007/03出版
ISBN : 9784124035025
¥1,365 (税込)
引用して紹介した『ささやかだけれど、役にたつこと』は、誕生日の目前に事故に遭った子供の両親と、孤独なパン屋の心の交流をとおして、傷ついた人々の再生を描く物語です。収蔵される他の作品もすべて、登場人物たちの悲喜こもごもを精細な筆致で描かれるこの短篇集は、レイモンド・カーヴァーの傑作集といっても過言ではないでしょう。
バタをひとさじ、玉子を3コ
石井好子 / 河出書房新社
2011/03出版
ISBN : 4309020275
¥1,470 (税込)
昨年亡くなられたシャンソン歌手、石井好子さんの今までに出された本には未収録だったエッセイをまとめた一冊。自他とも認める「食いしん坊」の石井さんが書くだけあって、読んでるそばから涎がでてくるご馳走のような本書だが、夢見るような文体で綴られるエッセイのひとつひとつが、極上のスパイスとなって幸せを運んでくれます。
(編集部 奥村知花)