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ブックレビュー-アート・フィクション
『失踪日記』
吾妻ひでお


河原乞食の鑑!

会田 誠 Makoto Aida

『失踪日記』
『失踪日記』
吾妻ひでお著/イースト・プレス
1,197円(税込)
ISBN4872575334
   
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 失踪、したいです。

 仕事したくないです。毎日毎日、失踪したいと思いながら、いやいや仕事してます。

  酒にも毎日逃げてます。酒を飲むために生きている、オレはアルコール依存症だと公言してきました。この間仲間と冗談半分で人間ドックを受けたら、脂肪肝、高脂血症などと診断され、一番先に死ぬのは君だと医者に名指しされました。

  ホームレスや肉体労働者にシンパシーを感じます。自分は現代美術家なんて偉そうな肩書き持ってるけれど、所詮ホームレス予備軍の肉体労働者だと思ってます。

  あと、はっきり言ってロリコンです。でも援交とかしたいわけじゃないです。街を歩いている美少女を遠くから眺めていたいだけです。そしてたまに、美少女を絵に描いて満足してます。そんな絵を売って家族を養ってます。

  そんな僕がたまたま本屋に入ったら、ああ懐かしや、思春期の僕にロリータ趣味の種をいっぱい蒔いてくださった吾妻先生の新刊が平積みに。しかもタイトルが『失踪日記』。

  買わないわけがないでしょう。

  もちろん面白かったです。そして恥じ入りました。前述のような、今までの破滅的な芸術家ぶった僕のセルフ・イメージは、なんてちっぽけなものだったんだろうか、と。「本物」を前にひたすら頭を垂れるのみです。

  河原乞食、という言葉が昔から好きでした。いつか外国で展覧会をやるなら、タイトルは「KAWARA-KOJIKI」にしようと思ってました。現代の海外におけるアーチストの社会的地位が妙に高いのが癪に触っていたので。しかし僕自身が純粋な河原乞食のわけはなく、それに畏敬の念を抱いている者に過ぎません。

  本書は、吾妻先生こそ現代における、文字通り「河原乞食の鑑」であることを余すことなく伝えてます。

  時代が生んだ天才、なんて言い方は古臭い気がして普段は使いませんが、今回ばかりは使いたくもなります。宮廷から飛び出して悲惨な晩年を自ら選んだ、時代の転換期に現れたゴヤやモーツァルトといった天才の生涯を思い出すのは僕だけでしょうか。大手出版業界から飛び出してマニアックなオタクカルチャーの先駆けとなり、発狂寸前まで自らを追いつめながらも、(ギャグマンガのフォーマットという)美しい表現を最後まで手放さなかった――これは本当にすごいことだと思います。

  内容についてはすでにたくさん書評も出ているようですし、ネタバレにもなるので詳しくは書きません。

  しかし少し書かせてもらうとしたら、まずは北国出身者ゆえとも思える、吾妻先生の愚直な人の良さ。特に前半の乞食話、後半のアル中話の強烈さに挟まれてややおとなしく見える、中盤の配管工時代の話によく現れています。

もっと軽いものでしたが、僕も美大を出てからガテン系のバイトをやったのでよく分かるのですが、ああいう職場にはホントに信じられないくらい性格の歪んだ小悪人が多いものです。そういう人々に騙されたり泣かされたりしながらも、吾妻先生は彼らを完全な悪人とは描きません。それぞれの特徴を簡潔にして活き活きと描くあたりに、僕は吾妻先生の飾らない人間愛みたいなものを感じました。

  また飄々とした話のテンポも独特なものでした。例えば夜にだけ出歩いていたホームレス時代、唐突にバイクが現れて古い民家に突っ込み、ドライバーがふらふらと立ち去るところなど、「ストーリー」にはなっていないけれど、リアルな深夜の情景描写として、効果的な余韻を残しています。こういうことが自然にできるのは、やはり長いキャリアの賜物でしょう。

  マンガ用のカッターで生大根を剥いて食うみたいな、吾妻先生の生命力の強さが、ネット自殺するような脆弱な世代への良い薬になるかも、なんてオヤジ臭いことも考えました。
  ただ僕としては困ったことに、アル中の恐ろしさがさんざん説かれているこのマンガを読んでから、逆に酒量が増えちゃいました。それはこの話が人生の地獄巡りを描きながら、逆説的に堂々たる人生讃歌になっているからだと思うのです。

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