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【宇野邦一氏選/映像身体論 ― 映像を知覚する身体と歴史・思想】

(No.198 2008. 4.11配信号)




今回のe-Alert Plus!では、フランス思想・哲学・文学のほか、演劇・ダンス・現代美術についての批評的エッセイで知られる宇野邦一氏が、『映像身体論』の刊行を記念して、映像論・身体論について選書くださいました。

映像を知覚する身体、その身体を規定する歴史や思想との関わりを考えるための好著をぜひご覧ください。

◇◆INDEX◆◇
 1.宇野邦一氏エッセイ「なぜ映像は身体の問題なのか」
 2.新刊『映像身体論』
 3.映像論/身体論を考える本(宇野邦一氏選)
 4.宇野邦一氏のその他の著書、訳書(の一部)
 5.関連ブックフェアのご紹介
   新宿本店5階「じんぶんや」第四十講 宇野邦一選 ― 映像身体論

Books
1.宇野邦一氏エッセイ「なぜ映像は身体の問題なのか」

★こんどみすず書房から『映像身体論』という本を出すことになった。私のはじめての映画論だけれど、映像と身体を考えながら、同時にこれまでに書いてきたことの多くを点検することになった。若いときからの思い出がある紀伊国屋書店に、自分で選んだ本を並べることになると、いろんな思いがわいてくる。

最初に出した『意味の果てへの旅』(青土社刊)から、いったいどれだけ進歩したのか。どんな歩みをしてきたのか。いまは、どこに向かっているのか。その大部分は会ったこともない読者たちは、いったいどうしているのか。そんなことも気にかかってくるのだ。

 ずっと同じ問題に執着してきたようだが、ずいぶん彷徨したようにも思う。批評と哲学の間を往復しながら、思考の散文をどう書くか、いつも気にかけてきた。二十歳の頃に読んだ小林秀雄と吉本隆明からは、批評的散文の文体や強度について大事なことを教わったが、その後さらに強烈な著者たちのフランス語原文に接して読解と翻訳を繰り返すうちに、また書き方を鍛えられたように思う。アルトー、ドゥルーズ、ベケットの貴重な作品を訳すことができたのは、幸運なめぐりあわせだった。

しかし、期せずして、いままでの仕事を総括するような文章になっている。これは思い出深い新宿の紀伊国屋書店のせいなのであるが、やはりいま現在の<思想>の話をしなければならない。

『映像身体論』はまず映像のほうにもぐりこんで、もういちど身体のほうに出て行く、という道をたどることになっている。当然ながら、映像は知覚される。映像を見ること・見せることは、知覚を操作することである。そういう意味で、映像は様々に知覚を操作する力がせめぎあう場所である。

映像はただ二次元のイメージではなく、映像を知覚する身体の奥行きの中で、さらにはその身体を規定する歴史的奥行きの中で考えなければならない。このことは、この本にとって基本的立場である。そこでそれぞれの映像が、どういう種類の力を生み出し操っているのか、これを批評することは、そのまま、映像によって作動している私たちの社会の力関係の分析につながる。

ドゥルーズのように、映画の<時間>を哲学することは、<空間>の中で明かに見えている映像の、あらゆる見えない襞を思考することにつながっていく。見えない襞には様々な力関係が、生のドラマが折りたたまれているのである。それはただ見えないのではなく、見ようとすれば見えるものでもある。ドゥルーズの『シネマ』以外に、セルジュ・ダネーの『不屈の精神』のような本からも(残念ながらいま入手が難しい)、私はこういう映像の思考をかきたてられてきた。

映像論も身体論もいまでは数多く存在するが、ほんとうに批評的、批判的な思索と思えるものはわずかしかない。ここにあげた本のリストから、映像身体論という一つの問題系が浮かび上がり、また何人かの親しい著者たちの本とともに、この時代の思想の、これだけは保持したいという<抵抗線>が描き出されることを願う。

Books
2.新刊『映像身体論』刊行!

【1】映像身体論
4622073625の画像宇野邦一【著】
2008/03 (みすず書房)

標準価格:税込\3,360    ISBN:9784622073628
★映像メディアは、知覚と身体をいかなる次元に導いてきたのか。
スペクタクル社会に空隙をうがつ「時間イメージ」の諸相とは、はたしてどのようなものなのか。ジル・ドゥルーズ晩年の主著『シネマ』の問いを受けとめつつ、「身体の映画」の新たな可能性を切り開く論考。

(主要目次)
序章 映像のほうへ
   第 I 部 映像身体論
1.映画という哲学的対象について5.サルトルからゴダールへ
2.フレームという恐ろしいもの6.映画における神聖な身体
3.キアロスタミ讃7.ヒッチコックの場合
4.イメージのイメージ8.知覚存在の政治学にむけて
   第 II 部 映像時間論
1.〈技術〉と〈群衆〉5.バザンの時間
2.エプスタン 物質の映画6.バザンの天使
3.映画とアルトー7.現実はどこに消えたか
4.新しい観客8.すばらしい無責任、あるいは
   終章 身体のほうへ
1.視覚と身体3.映画でなければ
2.小津安二郎の時間

Books
3.映像論・身体論を考える

※以下の★★で始まるコメントは、宇野邦一氏のものです。

【1】社会の喪失―現代日本をめぐる対話 (中公新書)
4121018141の画像市村弘正 / 杉田敦【著】
2005/09 (中央公論新社)

標準価格:税込\819    ISBN:9784121018144
★★市村弘正のドキュメンタリー論を再録し、政治学者杉田敦との対話をつけくわえた本。
ドキュメンタリー映画を解読していく市村の、「多方向で不確定な諸要素を含む事件の展開」にそそがれる注意力を貴重と思う。(宇野)

【2】プロセス―太田省吾演劇論集
4880593230の画像太田省吾【著】
2006/11 (而立書房)

標準価格:税込\3,150    ISBN:9784880593234
★★転形劇場はもう二度と見られないが、ただなつかしがっていてはいられない。
70年代の太田が、言語と身体のあいだの葛藤を考えぬいて、沈黙劇を構想した過程は、これからも演劇的実践や身体論の課題であるにちがいない。(宇野)

【3】音の静寂 静寂の音
4582832474の画像高橋悠治【著】
2004/11 (平凡社)

標準価格:税込\2,520    ISBN:9784582832471
★★近年の演奏活動の、なかなかクセのある「優しい」印象にだまされてはいけない。高橋悠治はあいかわらず挑発的である。音楽の歴史、建築、権威に対する攻撃的抵抗を続けている。音楽がなぜ身体の問題であるのかも語り続けている。(宇野)

【4】土方巽全集〈1〉 (普及版)
4309268447の画像土方巽【著】
2005/08 (河出書房新社)

標準価格:税込\2,940    ISBN:9784309268446
土方巽全集〈2〉 (普及版)
4309268455の画像土方巽【著】
2005/08 (河出書房新社)

標準価格:税込\2,940    ISBN:9784309268453
★★土方巽に出会い、死後も、その言葉を読み続けたことは、いまでも私の思考の源泉になっている。特に『病める舞姫』という分類不可能な書物は、読み返すたびに、ぎっしり折りたたまれていた意味が、少しずつ開けてくる。20年たって、ようやく読めてくる言葉もある。(宇野)

【5】絵画以前の問いから (Le livre de luciole) ファン・ゴッホ
4879956295の画像矢野静明
2004/12 (書肆山田)

標準価格:税込\2,625    ISBN:9784879956293
★★映像ではなく絵画に関する本をあえてあげるのは、私の映像論はいつも、背後に絵画の問題をおいて進んでいたからである。画家でもある矢野のアプローチは、ゴッホの生き方をじかに絵画のあり方に結びつけている。それはまさに<絵画以前>を思考するために選ばれた方法であった。(宇野)

【6】ディクテ―韓国系アメリカ人女性アーティストによる自伝的エクリチュール
4791760433の画像チャ,テレサ・ハッキョン【著】〈Cha,Theresa Hak Kyung〉 / 池内靖子【訳】
2003/06 (青土社)

標準価格:税込\2,310    ISBN:9784791760435
★★彼女のこの実験的作品は、小さな本の中に信じがたいほどの重層を含ませている。韓国の歴史、記憶と痛み、石に刻まれる文字、イメージと声の分裂そして和解。記憶の襞をさぐりながら、知覚を分解し、徐々に未生の次元に移っていくような美しい試みだ。(宇野)

【7】アルベルト・ジャコメッティのアトリエ
4773899123の画像ジュネ,ジャン【著】〈Genet,Jean〉 / 鵜飼哲【編訳】
1999/10 (現代企画室)

標準価格:税込\2,625    ISBN:9784773899122
★★ジュネの最後の本『恋する虜』とともに、いつも立ち返っていくテクストで、絵画論をつきぬけて、イメージの生を書きとめた、類まれな本である。(宇野)

【8】つぶやきの政治思想―求められるまなざし・かなしみへの、そして秘められたものへの
4791756843の画像李静和【著】《リイヂョンファ》
1998/12 (青土社)

標準価格:税込\1,680    ISBN:9784791756841
★★政治思想に対して、新しい文体と問題を投じた本。俯瞰的に社会をながめることを拒否しながら、政治と歴史における身体を発掘する試みが、日本語そのものを海峡に漂わせるような文体とともに達成された。(宇野)

【9】ランボー全詩集 (ちくま文庫)
4480031642の画像ランボー,アルチュール【著】〈Rimbaud,Arthur〉 / 宇佐美斉【訳】
1996/03 (筑摩書房)

標準価格:税込\1,155    ISBN:9784480031648
★★「若気のいたり」で読む本などと、かんちがいしないでほしい。イメージと身体に関するまったく先駆的な鋭い問題提起が、ランボーの散文詩や書簡には含まれている。私はまず『イルミナシオン』によって身体の問題に目覚めた。(宇野)

【10】中井正一評論集 (岩波文庫)
4003319818の画像中井正一 / 長田弘
1995/06 (岩波書店)

標準価格:税込\903    ISBN:9784003319819
★★映像の「深淵」について考えた中井の文章は、いまなお新鮮である。彼の思考の未来派的な<いきおい>は、あの時代の哲学者にあまり見られなかった、いまでも見られない輝きをもつ。(宇野)

【11】伴侶
4879952079の画像サミュエル・ベケット / 宇野邦一
1990/04 (書肆山田)

標準価格:税込\2,100    ISBN:9784879952073
見ちがい言いちがい
4879952575の画像サミュエル・ベケット / 宇野邦一
1991/11 (書肆山田)

標準価格:税込\2,100    ISBN:9784879952578
★★ベケット晩年の双璧といえる傑作で、彼の名高い演劇作品の延長線上にあって独自の探求を究めながら、新しい次元を開いている。とりわけ声、イメージ、言葉、身体のつながりをつぶさに分離することによって、演劇空間をゼロから考えなおさせる。(宇野)

Books
4.宇野邦一氏、その他の著書・訳書(の一部)

【1】シネマ〈2〉時間イメージ (叢書・ウニベルシタス)
4588008560の画像ドゥルーズ,ジル【著】〈Deleuze,Gilles〉 / 宇野邦一 / 石原陽一郎 / 江澤健一郎 / 大原理志 / 岡村民夫【訳】
2006/11 (法政大学出版局)

標準価格:税込\4,935    ISBN:9784588008566
★映画を思考することによって時間や運動をめぐる哲学の新たな概念を創出する。
ドゥルーズの思想が多様に注入され再編成された結晶を示す。

【2】“単なる生”の哲学―生の思想のゆくえ (問いの再生〈3〉)
4582702554の画像宇野邦一【著】
2005/01 (平凡社)

標準価格:税込\2,100    ISBN:9784582702552
★★<生政治学>の問題を、生物学、ニーチェ、権力論、芸術論の交点にあるものとして素描した本である。フーコー、アガンベンの生政治学と、ドゥルーズの生の哲学はどこで結び合い、すれちがうのか、考えてみた。この本はもう少し多くの人に読んでほしいと思っている。(宇野)

【3】破局と渦の考察
4000244264の画像宇野邦一【著】
2004/12 (岩波書店)

標準価格:税込\3,045    ISBN:9784000244268
★★この評論集は少し破格なつくりになっている。目次も、文章のタイトルもなくした。読者は既成の意味に導かれずに、思考の渦に投げこまれる。もちろん、そういう読書に耐える言葉でありえているか、作者にとっても危うい試練である。(宇野)

【4】意味の果てへの旅 (新装版)
4791754883の画像宇野邦一【著】
1996/10 (青土社)

標準価格:税込\2,446    ISBN:9784791754885
★強いられた真理や表象をこばみ、意味と無意味のはざまを見ることから批評は始まる。秩序とカオス、内と外、中心と周縁といった二分法を支える境界そのものに自己を滲透させ、言語・文学・思想・絵画・舞踏のテキストと共振し、ゆらぐ世界の波動をさぐる。

Books
5.関連ブックフェアのご紹介
新宿本店5階「じんぶんや」第四十講 宇野邦一選 ― 映像身体論

★ 『映像身体論』(みすず書房)刊行を記念して、宇野邦一氏のオリジナルエッセイおよび関連書籍25点をコメントつきでご紹介中です。ドゥルーズ『シネマ2』(法政大学出版会)をはじめ、これまでの著作・翻訳書も展開、宇野氏のの思想的営為が俯瞰できるフェアとなっています。

◇開催場所:紀伊國屋書店新宿本店 5階カウンター前

 ◇会 期 :開催中 〜 2008年5月上旬

 ◇お問合せ:紀伊國屋書店新宿本店 03-3354-0131
          http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/01.htm

※じんぶんやとは―
  2004年9月から開始した「月替わりのテーマ、月替わりのプロの選者」をコンセプトにした、新宿本店人文書売場オリジナルの常設コーナー。
   これまでの「じんぶんや」はこちらから
   ⇒ http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/jinbunya/

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