| 【上野千鶴子氏選・セクシュアリティの近代】 (No.174 2008. 1.11配信号) |
今回のe-Alert Plus!では、女性学、ジェンダー研究のパイオニアであり、指導的な理論家である上野千鶴子氏(東京大学大学院教授)にご選書頂いたフェアをご紹介致します。 (上野氏のエッセイより)「性の歴史からはじまって、日本のセクシュアリティの近代をいっきに駆け抜け」、「セクシュアリティのリアル」について考察させられる特集です。どうぞご覧ください。 ◇◆INDEX◆◇ 1.上野千鶴子氏エッセイ(全文) ◇書籍のご紹介 2.セクシュアリティの歴史学/政治学 3.近代以前の性 4.近代の性 5.現代の性(性の商品化、セクハラと性虐待、セクシュアル・マイノリティ、性教育、性の障害学) 6.上野千鶴子氏 近刊著作より ◇ブックフェアのご紹介 7.「じんぶんや」第三十七講:上野千鶴子選―近代ニッポンの下半身 この特集の元になったフェア新宿本店5階「じんぶんや」フェアのご紹介。 書籍総計196点、すべて上野氏本人によってご選書です。(〜1/31まで) |
1.上野千鶴子氏エッセイ(全文) |
★セックスは「両脚のあいだ」に、セクシュアリティは「両耳のあいだ」にある。 人間はセックスを性器ではなく、脳で行う生きものだ。性器が欲望する、のではなく、脳が欲望する。 セクシュアリティは性をめぐる歴史的社会的な現象、エロスは発情のための文化的なシナリオ・・・フーコーの『性の歴史』以降、セクシュアリティを「自然」と「本能」で語ることは禁句になった。 セクシュアリティは自然科学から人文社会科学の領域へとシフトし、「歴史」と「社会」の研究対象となった。 性についての近代の知、それがセクシュアリティだ。 だから「セクシュアリティの近代」はあるが「近代のセクシュアリティ」は、ない。近代以前の性について、わたしたちはセクシュアリティという概念で知ることができない。そう思えば、日本近代は、わずか一世紀のあいだにセクシュアリティが急速に成立し、それが瓦解していく稀有な歴史的な実験場だったと言えるかもしれない。「自然」や「本能」と見えたものが目の前で変化していく速度は、思ったより速い。 日本において「セクシュアリティの近代」とはなんだったのか?近代に汚染される前の、日本のエロスはどんなものだったのか?亀裂が入ることによってはじめて遡及的に見える過去がある。異性愛規範が解体していくことによって、万華鏡のように多様なすがたをあらわす新たな欲望と関係のありかたがある。 It takes two to make it happen...セックスが成り立つためには、ふたりの人間が要る。そしてそのあいだには、めのくらむような落差がある。セックスはそのままで愛の行為でもなければ快楽の経験でもない。セックスは愛の行為であることもあれば、憎悪の行為であることもある。また快楽の経験であることもあれば、凌辱の経験であることもある。贈与であることもあれば、労働であることもある。いっぽうにとって支配と執着の行為であり、他方にとって恐怖と虐待の経験であることもある。セックスに「本質」はない。ただ、それがおかれる社会的な文脈と関係に応じて、愛から憎悪まで、快楽から凌辱までのさまざまなスペクトラム上の位置を占めるだけだ。 このコレクションでは、性の歴史からはじまって、日本のセクシュアリティの近代をいっきに駆け抜けてほしい。そして性のポジティブな面だけでなく、暗黒面もともに視野におさめてもらいたい。そのどれもがセクシュアリティの「リアル」なのだから。タイトルを「近代日本の下半身」となづけたが、ほんとうはわたしたちが目にしているのは知と欲望のかたちなのだ。 |
2.セクシュアリティの歴史学/政治学 |
※以下の★★印で始まるコメントは、上野千鶴子氏のものです。 |
【1】 | クローゼットの認識論―セクシュアリティの20世紀 | |
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セジウィック,イブ・コゾフスキー【著】〈Sedgwick,Eve Kosofsky〉 / 外岡尚美【訳】 1999/07 (青土社) 標準価格:税込\2,940 ISBN:9784791757220 |
★★ホモソーシャル、ミソジニー、ホモフォビアの三位一体構造を解き明かした名著。(上野) |
★同性愛を異質化し、周縁へと追いやる異性愛主義は、19世紀末に始まったものにすぎない。 メルヴィル、ニーチェ、プルーストなどを読み解きながら、その中にホモ/ヘテロセクシュアルの分断を不可能にする揺れを発見し、セクシュアリティの混沌を見つめる意欲作。 |
【2】 | レスビアンの歴史 | |
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フェダマン,リリアン【著】〈Faderman,Lillian〉 / 富岡明美 / 原美奈子【訳】 1996/11 (筑摩書房) 標準価格:税込\4,935 ISBN:9784480857330 |
★★歴史から隠された女たち。こういう歴史書、日本にもほしい。 |
★19世紀末、「ロマンティックな友情」と呼ばれて称賛された女どうしの友情と愛は、性科学の隆盛とともに「変態」の烙印をおされ、“女らしくない”ふるまいはすべて「レスビアン」とみなされるようになる。そして60年代のゲイ解放運動の爆発、レスビアン・セックス論争…。 19世紀末から90年代の現在に至る、アメリカ100年の女性愛の歴史。 (ピューリッツァー賞候補。ラムダブック賞受賞。) |
【3】 | 性の歴史学 公娼制度・堕胎罪体制から売春防止法・優生保護法体制 (普及版) | |
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藤目ゆき 1997/03 (不二出版) 標準価格:税込\5,040 ISBN:9784938303181 |
★★売春防止法は女性差別だった?手堅い実証研究にもとづく目からウロコの労作。(上野) |
【4】 | (性の歴史〈1〉/知への意志) | |
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フーコー,ミシェル【著】〈Foucault,Michel〉 / 渡辺守章【訳】 1986/09 (新潮社) 標準価格:税込\2,520 ISBN:9784105067045 |
(性の歴史〈2〉/快楽の活用) | ||
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フーコー,ミシェル【著】〈Foucault,Michel〉 / 田村俶【訳】〔タムラハジメ〕 1986/10 (新潮社) 標準価格:税込\3,045 ISBN:9784105067052 |
(性の歴史〈3〉/自己への配慮) | ||
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フーコー,ミシェル【著】〈Foucault,Michel〉 / 田村俶【訳】 1987/04 (新潮社) 標準価格:税込\3,045 ISBN:9784105067069 |
★★本書以降、性を「本能」と「自然」と呼ぶことはもはや許されなくなった。性の歴史学を告げる古典。(上野) |
【5】 | セックス神話解体新書 (ちくま文庫) | |
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小倉千加子【著】 1995/09 (筑摩書房) 標準価格:税込\630 ISBN:9784480030856 |
★小気味いいほど鮮やかに打ち砕かれていく性の神話の数々。これ一冊であなたのフェミニズムに対する疑問は氷解する。 |
3.近代以前の性 |
【1】 | 夜這いの民俗学・夜這いの性愛論 (ちくま学芸文庫) | |
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赤松啓介【著】 2004/06 (筑摩書房) 標準価格:税込\1,260 ISBN:9784480088642 |
★筆おろし、若衆入り、水揚げ…。古来、日本人は性に対し大らかだった。在野の学者が集めた、柳田が切り捨てた性民俗の実像。 |
【2】 | 武士道とエロス (講談社現代新書〈1239〉) | |
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氏家幹人【著】 1995/02 (講談社) 標準価格:税込\756 ISBN:9784061492394 |
★男どうしの恋の道、衆道は“武士道の華”。美少年の争奪、衆道敵討、義兄弟の契り。江戸の風俗大革命で喪われていく「性」の煌き。武士たちの愛と絆を通して日本男性史を書きかえる。 |
【3】 | 江戸の春画―それはポルノだったのか (新書y) | |
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白倉敬彦【著】 2002/08 (洋泉社) 標準価格:税込\819 ISBN:9784896916546 |
★★春画のことならこの人に聞け。タブーなき春画研究のアイス・ブレークとなった。(上野) |
4.近代の性 |
【1】 | 純潔の近代―近代家族と親密性の比較社会学 | |
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ノッター,デビッド【著】〈Notter,David〉 2007/11 (慶應義塾大学出版会) 標準価格:税込\2,625 ISBN:9784766414233 |
★近代におけるロマンティック・ラブとは何か―。 配偶者選択の意志決定主体、家族関係、夫婦関係の変容を、明治・大正期の書籍・雑誌などにみられる言説、および、アメリカの先行研究との比較から分析。近代日本における「愛」の歴史を辿り、日本近代の家族制度、結婚制度、文化の特徴をあきらかにする。 |
【2】 | 猥談―近代日本の下半身 | |
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赤松啓介 / 上野千鶴子【著】 / 大月隆寛【介錯】 1995/06 (現代書館) 標準価格:税込\3,150 ISBN:9784768466629 |
【3】 | 日本の童貞 (文春新書) | |
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渋谷知美【著】 2003/05 (文芸春秋) 標準価格:税込\798 ISBN:9784166603169 |
★女性からはモテない、不潔と蔑まれ、体験済みの男からは馬鹿にされる恥ずかしい存在。 そんな童貞が「カッコいい」時代があった― |
【4】 | 性愛の民俗学 (歴史民俗学資料叢書 第3期〈第3巻〉) | |
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礫川全次【編】 2007/07 (批評社) 標準価格:税込\4,200 ISBN:9784826504690 |
★近代日本国家のイデオローグ・柳田國男が考究を忌避した《性愛の民俗学》の空隙を埋めるべく、 尾佐竹猛、中山太郎、伊波普猷、安田徳太郎らの優れた業績を網羅的に収録した研究者必読の文献。 |
【5】 | 日本的エロティシズムの眺望―視覚と触感の誘惑 | |
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元田與一【著】 2006/09 ((諏訪)鳥影社・ロゴス企画) 標準価格:税込\1,995 ISBN:9784862650177 |
★日本人は裸体に関心がなかった!? 日本の美意識はいかにしてつちかわれたのか。西洋や中国の絵画と比較しながらその独自性に迫る。 |
【6】 | 革命と性文化 | |
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若尾祐司 / 栖原彌生 / 垂水節子【編】 2005/05 (山川出版社) 標準価格:税込\3,150 ISBN:9784634640146 |
★フランス革命、48年革命、南北戦争、ロシア革命、ナチ政権期といった、革命や戦争の政治的危機の時代に着目して、近代社会における性文化のありようを示し、家族史・ジェンダー史などの視点から歴史にアプローチする試み。 |
5.現代の性 ― 性の商品化、セクハラと性虐待、 セクシュアル・マイノリティ、性教育、性の障害学 |
【1】 | 「セックスワーカー」とは誰か―移住・性労働・人身取引の構造と経験 | |
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青山薫【著】 2007/12 (大月書店) 標準価格:税込\3,990 ISBN:9784272350261 |
★グローバル化のなかの性産業とそこに生きる女性たち。女性たちの個人史を聞き、ライフ・コースを追うことで浮かび上がる、ジェンダー格差と経済格差にもとづいたグローバルな性取引。その、「奴隷制か労働か」という定義ではなく、「生きられた経験」に即した理解を試みる。タイと日本でのフィールドワークをもとにした充実のモノグラフ。 |
【2】 | 買う男・買わない男 (新装版) | |
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福島瑞穂 / 中野理恵【著】 / パンドラ【編】 1995/03 (現代書館) 標準価格:税込\1,680 ISBN:9784768455784 |
★★「売る女」の研究ばかりが多いのに「買う男」の研究はなぜ少ない?空白を埋める。(上野) |
【3】 | DVと虐待―「家族の暴力」に援助者ができること | |
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信田さよ子【著】 2002/03 (医学書院) 標準価格:税込\1,890 ISBN:9784260331838 |
★なぜ虐待された子は親を慕い,殴られた妻は夫のもとに戻るのか― この「当事者性の不在」という“謎”解きから始めない限り,援助者は家族の暴力に太刀打ちできない。「味方になる」「第三者を登場させる」「数と時間の効果」等の魅力的な概念を駆使して贈る,まったく新しいアプローチの数々。 |
【4】 | 9人の児童性虐待者 | |
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シュルツ,パメラ・D.【著】〈Schultz,Pamela D.〉 / 颯田あきら【訳】 2006/08 (牧野出版) 標準価格:税込\2,940 ISBN:9784895000925 |
★★性虐待の被害者が面接した9人の加害者の記録。許せないけれど理解できる。(上野) |
★自らも被虐待経験を持つ女性研究者が<加害者>に向き合う。全米で高い評価を受けたインタビュー集、衝撃の刊行!! |
【5】 | エロマンガ・スタディーズ―「快楽装置」としての漫画入門 | |
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永山薫【著】 2006/11 (イースト・プレス) 標準価格:税込\1,680 ISBN:9784872577327 |
★大袈裟ではなく、人類が獣脂の灯火を頼りに石窟に野牛や羚羊を描いた時からエロ漫画の歴史が始まったのである。描くことの快楽。表現することの快楽。見せることの快楽。感動を、畏怖を、エロスを他者に伝える快楽。(第一部前説「ミームが伝播する」より) |
【6】 | トランスジェンダー・フェミニズム | |
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田中玲【著】 2006/03 (インパクト出版会) 標準価格:税込\1,680 ISBN:9784755401565 |
★★三橋順子さんの「トランスジェンダー・フェミニズム」を収録。それだけでも一読の価値あり。(上野) |
★私は「男になりたかった」のではない。「女ではない」身体が欲しかっただけだ。 フェミニズムとの共闘へ、クィアコミュニティの深部から放つ爽快なジェンダー論。 |
【7】 | ヴァギナ・モノローグ | |
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エンスラー,イヴ【著】〈Ensler,Eve〉 / 岸本佐知子【訳】 2002/12 (白水社) 標準価格:税込\1,575 ISBN:9784560047576 |
★200人以上の女性に自らの女性器について語ってもらい、それをもとに著者が演じた一人芝居は大反響を呼んだが、芝居から新たに書き起こされた本書も、その衝撃的な力で全米を感動させた。 |
【8】 | セクシュアリティの障害学 | |
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倉本智明【編著】 2005/06 (明石書店) 標準価格:税込\2,940 ISBN:9784750321363 |
★障害女性、介助、障害当事者運動、家族、専門教育など多角的な視点から「障害とセクシュアリティ」を論じた意欲作。障害者の性という窓を介して現代のセクシュアリティの一断面がみえてくる! |
6.上野千鶴子氏 近刊著作より |
【1】 | おひとりさまの老後 | |
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上野千鶴子【著】 2007/07 (法研) 標準価格:税込\1,470 ISBN:9784879546807 |
★結婚していようがいまいが、世界一長生きの日本女性は、最後は「おひとりさま」になる(確率が高い)。そこで、元気なうちに、セーフティネットを準備し、予備知識を得ておこう。 社会学者の視点で、「老い」のさまざまな問題点も浮き彫りにしながら、自身の問題としても考察した、上野教授、久々の書き下ろし。 |
【2】 | 女という快楽 (新装版) | |
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上野千鶴子【著】 2006/07 (勁草書房) 標準価格:税込\2,520 ISBN:9784326653171 |
★刊行から20年。女性も男性も社会も大きく変わった。この時代をきりひらく原点となった記念碑。「新装版へのまえがき」で<フェミニズムのはるばる来た道>を明らかにする。 女たちが望んでいるのは、がんばらずに仕事も家庭も子どもも手に入れられるというごく当り前のこと。どうしたらそうできるか、どこに問題があるのか。80年代からの著者の思想形成をあとづけ、新しいステージを展開する。 <女と男の関係の解放>を説きつづけ、時代の稀有な転換点をスリリングな発見と共に生きたフェミニストのすべて。 |
【3】 | 生き延びるための思想―ジェンダー平等の罠 | |
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上野千鶴子【著】 2006/02 (岩波書店) 標準価格:税込\2,520 ISBN:9784000221511 |
★「男なみ」をめざすことで袋小路に入り込んでしまったフェミニズムの思想的な落し穴を指摘し、国家暴力と対抗暴力とを問わず、男仕立ての「死ぬための思想」を根源的に批判。「暴力」に抗して人間らしく生きるために、今何が問われているのかを明晰に論じる。 上野の多彩な活動を結節する思想的な核を浮彫りにする重要な一冊。 |
7.新宿本店5階「じんぶんや」第三十七講 上野千鶴子選―近代ニッポンの下半身 |
◇開催場所:紀伊國屋書店新宿本店 5Fカウンター前 ◇会 期 :2007年12月21日(金)〜2008年1月31日(木) ◇お問合せ:紀伊國屋書店新宿本店 03-3354-0131 http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/01.htm ◆「じんぶんや」第三十七講 上野千鶴子選・近代ニッポンの下半身 フェアの全貌についてはこちらから ↓↓ http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/jinbunya/ |
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